「密やかな結晶」(ネタばれあり)
小川洋子という作家の作品を読んでみております。
最初に図書館で借りてきた「まぶた」という短編集を読みまして、どことなく村上春樹を思わせるような、少し奇妙で興味深い作品を書く作家さんなのだなぁと思いました。
でも、一番最初に「読んでみようかな」と思ったのはこの「密やかな結晶」でした。図書館にはなかったので、文庫を自分で買ってきました。
ここではない違う世界の物語。
やっぱり私は、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」にちょっと感じが似てるな、と思いました。村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」は、「世界の終わり」というもう一つの閉じられた世界の話と、現実(?)である「ハードボイルド」な話が平行して書かれている作品です。「密やかな結晶」は、ここで言う「世界の終わり」という方の話に雰囲気が似ている気がしました・・・って、知らん人には何の話か分かりませんわね。
「密やかな結晶」は、次々に物が消滅していく島の一人の女性小説家の話。
「物が消滅していく」という話は、「言葉が消滅していく」筒井康隆の「残像に口紅を」と同じで、やはり消滅していく物に対する思いが切なくて悲しい、物語です。でも消滅してしまうから、その「切なくて悲しい」気持ちさえ消えて思い出せなくなっていく・・・それがまた切ない。
ただ違うのは、「残像に口紅を」の言葉の消滅が、作者の実験だったのに対して、「密やかな結晶」では、誰が何のために物を消していくのかが最後まで明らかにされません。
物が消滅すると同時に、島に住む人々の記憶からもその物に対する記憶は消えていくのですが、中には記憶が消えない人もいて。そういう人は「記憶狩り」という組織(それも何のためにあるのか分からない)に連れて行かれてしまいます。
女性小説家は、そんな、記憶が消えない人を一人、自分の家の中に匿います。
面白いことに、記憶が消える人にとっては、その「物」が消えた後、仮にそれが目の前にあっても、その物は何の意味も持たず、つまり、その人にはないのと同じことになります。
たとえば「ハーモニカ」。記憶の消えた人には、もう「ハーモニカ」というものはこの世に存在しません。だから、実際にその「物」が目の前にあっても、それが何をするものなのか、吹いて音が出ても、それが何なのか理解することができなくなります。ただの銀色の穴の空いた棒にしか見えない。
でも記憶が消えない人にとってはそれは相変わらず「ハーモニカ」なのですよ。
そんなふうに「物が消滅していく」仕組みが面白くて最後まで読みましたが、結局、このお話には謎解きはありません。ただ物が無くなっていって終わるだけ。後には、記憶が消えない人だけが残る。
最初は、記憶が消えない人が記憶狩りにあって、次々と連れ去られるのですが、最後はそんな逆転のシーンでこの小説は終わります。
えーと。面白くないかと言われるとそうでもないのですが、私はどうも物語に「起承転結」を求めてしまうので、なんとなく終わってしまうところが今一つな感じでした。
昔、「銀河鉄道999」が大好きで。「銀河鉄道999」には奇妙な星がたくさん出てきます。主人公の鉄郎は999に乗って、アンドロメダへ向かいながら、いろいろな星を旅します。
「密やかな結晶」は、「999」で言うなら、「物が消滅していく」星が一つあって、その星が最後にまるごと「消滅」してしまった感じの話。
または「キノの旅」っていう小説があるんですが、主人公のキノは、いろいろな国を旅しています。その国もいろんな奇妙な国がありまして。そんな「国」の一つって感じもします。
つまり・・・これだけで、小説一本にするにはちょっと小ぶりかなぁと^^; そんな印象の小説でした。
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