「本と旅する彼女」
「夏合宿」(著・瀬川ことび)という短編集を図書館から借りてきて読みました。
著者は角川ホラー大賞をとった作家さんとのことで、無論、この短編集もホラーです。
ホラー好きというと「物好き」に見られがちなんですが、スプラッタが好きなわけではなく、もともと心理学に興味があって、大学の専攻もそっちだったので、人の心を扱う小説が好きなんですよ。サイコ・ホラーなんてその最たるもの。
とはいえ、人の心ならば、ラブ・ストーリーだってよいはずで、自分が書く小説はどっちかというとそっちです。でも少女マンガみたいな普通の恋物語では面白くないので・・・いや、私の小説の話はどうでもよろしい(爆)
本日の表題は、その「夏合宿」という短編集の中の一編です。
「本と旅する彼女」・・・なかなか意味深でしょ?
「夏合宿」という短編集はどちらかというと、それほど深刻に読む類の小説は少なくて、ホントに軽く、通勤電車の中でさらっと読めてしまうお話ばかりで、「本と旅する彼女」という短編も、さらっと読めてしまいました。
終わりまで読んで、それほどびっくりしたわけでも、ぞくっとしたわけでも、心に深く残ったわけでもなかったはずですが・・・図書館に返してしまってから、なぜか何度も、そのお話のシーンを頭の中でリフレインしてしまっているのに気付きました。
どんなお話かというと・・・ここに書くとネタバレになっちゃうのですが、せっかくですのでご紹介しましょう。
ある一人の女性が、エーゲ海を船で渡っているシーンからこのお話は始まります。
美しい海。美しい空。私は地中海クルーズなどはしたことないのですが、その美しい海を想像してわくわくしました。主人公の「彼女」は、一人旅で、ギリシアの名もない小島へ向かっています。日本から何日もかけて有給休暇を使って。
ギリシア語もろくに話せないのですが、そんな中、観光客などは絶対に立ち寄らないような島に彼女が向かっているわけは、物語を読んでいくうちに明らかになります。
彼女は、その島にあるという、岸壁に描かれた魔神の像を見にいくところでした。
岸壁に描かれた魔神の姿は、自然に削られたのがそう見えるのか、誰かが描いたのか分からない。
嵐のときにはその魔神が通りかかった船を沈めるという伝説がある。
彼女はそういうお話が大好きで、その伝説が書かれた本を片手にその島へ行き、町の食堂の、人の良い現地の若者を捕まえてボートを出させ、魔神のいる岸壁へ向かう。
・・・さて、どうなるか、この後の展開、みなさんは想像がつくでしょうか。
彼女は念願かなって、岸壁の魔神の姿を見ることができるのですが、その岸壁の前で・・・何気なく、神社でするように、柏手を打ってしまいます。やっと会えた魔神に感謝するつもりで深い意味はなかったのですが、どうもそれがまずかったらしく。
その晩から島は嵐に見舞われてしまいます。
異国の島で、言葉もろくに通じない中、足止めを食う彼女。そうしているうちに周りの状況はどんどん悪化します。
島の人がなにやら騒いでいる。どうやら彼女を探しているようです。それも殺気立った様子で。魔神を鎮めるには、いけにえを出す必要があるらしい。嵐を招いた彼女をそのいけにえにしようとしているのが分かる。
ボートを出してくれた食堂の若者が、彼女をそっと逃してくれようと、嵐の中ボートを出してくれるのですが、嵐の中、彼女はその若者とともにボートの中で激しく揺さぶられ、最後には気絶してしまいます。
そして・・・彼女は助かりました。通りがかった船に助けられたようです。一緒に乗っていた彼女を助けてくれた若者は、海に落ちたのか姿が見えなくなってしまいました。その上・・・あの魔神がいた島は、津波に襲われ、島の住人は全滅してしまいました。
日本に帰ってきた彼女は事件にショックを受けて落ち込んでいます。落ち込んでいますが・・・
そう、この先がね。
ちょっとびっくりする終わり方です。
この彼女、実はこういうことが初めてではないのです。
世界各地に残るちょっと変わった伝説の地へ、自分で行って見てみるのが好きで、今までも伝説の地へ旅をしたことがあって。
そして、彼女が訪れた地では、同じように大災厄に見舞われる。現地の人間は全滅し、いつも彼女だけ助かる。彼女自身は繰り返されるそのことの不思議さにまるで気付いていないのですが・・・
そして、彼女は今回のことにもこりず、また次の旅行先を考えています。次の目的地は・・・と、いうところで、この短編は終わります。
彼女は一体何者で、どうして彼女だけが助かる運命になっているのか。想像すると怖くなってきませんか。
きっと彼女はこれからもたくさんの伝説の地へ旅行することでしょう。
その度、その地は災厄に見舞われる。
本人には自覚がないけれど、災厄をもたらす死の女神・・・とはその小説には書かれていませんが、なんだか自分でいろいろと想像して、「うわ~~~!」となっておりました。
多分、自分の、海外に旅行してちょっぴり心細い気分になったり、見知らぬ景色と出会って感動したり、そういう感覚が蘇るので、感情移入しやすいのかもしれません。
そして、散々な目に合って、無事に日本に戻ってきてほっとして。
でも実は全ての原因は自分にあった、というところがなんとも、ね。
読んだ時はそれほどでもなかったのですが、エーゲ海を船で渡っていくシーンからストーリー全般を今もこうして、何も手元になくても再現できるほど・・・どうも印象に残ってしまいました。
最初に読んだときはそんなにすごい話とも思ってなかったんですが^^;
不思議ですわ。
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