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2008.08.14

小野不由美「屍鬼」感想(ネタバレあり)

「屍鬼」全5巻、読み終わりました。

(以下はネタバレです。これから「屍鬼」を読もうと思う方は読んじゃだめです。)

 私は子どもの頃、母が読んでいた、萩尾望都の「ポーの一族」をいっしょになって読んでいたのですよね。私にとっては・・・ほとんど「教科書」といってもいいくらいの作品でありました。今から思えば、意味も分からず読んでいたところもあったんですが。

 「屍鬼」の4巻あたりを読んでいましたら、その「ポーの一族」のいろいろなシーンが重なりました。ヴァンパイアになってしまったのに、自分の有りようを受け入れることができず、存在意義を問い続けるその姿とか。
 5巻には、村が一斉に蜂起して、屍鬼狩りを始めます。「ポーの一族」たちも小さな村に隠れ住みながら、村人の蜂起を一番恐れていたっけ。

 「屍鬼」の後半にはいろんなテーマが内包されています。「人間」と「屍鬼」という、姿は変わらないのに、在り方が異なる存在が対立する。その中で、悩んだり、苦しんだり。「屍鬼」は物語の前半で、人間を脅かす得体の知れない恐怖であったのですが、その正体が明らかになったとたん、それと否応もなく対峙する人間の姿と、「屍鬼」側の心理も描かれていきます。

 読み始めた時は、5巻は長い、と思ったのですが、これ、長くないな。足りないくらい。

 「ポーの一族」の登場人物であるエドガーたちもずっと、一族の故郷である「ポーの村」を探していました。自分たちの安住の地を求めて。そして、たった一人で永遠を生きることはやっぱりできなくて、エドガーは物語の前段では、妹、メリーベルを守り、後段ではアランという友達といっしょに生きることとなります。

 私にとって「屍鬼」はエドガー達の物語の続きのようにも思えました。
 自分たちの故郷を自分たちの手で作りあげようとしたヴァンパイアの話。しかしその望みも、結局、志半ばで崩壊してしまいます。「人間」を守ろうとした一人の医師の手によって。家族を殺された村人達の怒りによって。

 人間が人間であろうとするのは当然で。人を食料とし、殺すことを厭わない存在を駆逐しようとするのも当然。
 だから私は、この物語の中で、屍鬼と最後まで強い態度で対峙した医師をやっぱり偉いと思うのですよ。人間が目の前で喰われていくこと・・・真実を知りながら、放置できないじゃないですか。どんなに誰にもそれを信じてもらえなくても。

 彼は医師であるがゆえに、医学的なデータを元に人間が次々と失血死する事実に気づき、そこから、一番早く何が起こっているかを突き止めます。でもそれを信じてくれる人はほとんどいない。誰だってこの現代に「吸血鬼」が実在して人を襲ってるなんて信じられるわけありません。

 さらに、この物語の中で、医師は一番の理解者だった友人さえ失ってしまいます。
 その友人は「屍鬼」を敵だと考えそれを駆逐するためには手段を選ばない医師を、理解できないと言って去り、最後は屍鬼と行動を共にしてしまう。

 もし私が医師だったら、何もかも失ってまであれほど強い意志で屍鬼という現実と対峙できない・・・そういう意味で医師は、この物語の中ではいわゆる「ヒーロー」のはずです。
 
 でも小野不由美はそういうふうには書かない。あくまで屍鬼を敵としてしか見ない医師が果たして正しいのかどうかは、読者の判断に委ねられます。読んでいるこちらも問われています。「あなたならどうする?」と。

 私なら・・・どうするかなぁ。
 自分を喰らおうとする者に抵抗できるだろうか。自分を襲おうとする屍鬼もまたかつては人間であり、屍鬼に襲われた被害者なのに。屍鬼が人間をエサにしなければ生きていけない存在だからって、胸に杭を打ち、首を落とすことができるか。
 ・・・できないだろうな。
 自分以外の人間が襲われて死んだりして異常に気づいても、自分が襲われる、死の瞬間まで何もしないでいて、いざそうなったらそれはそれで仕方ないやとあきらめる、しょうもない人間の一人だろうな^^; そしてまかりまちがって自分も屍鬼になったら、今度は人間に狩られる。最悪です。

 と、いうわけで。
 小野不由美とこの「屍鬼」という小説は、やっぱりすごいなぁ。
 最初の1冊は、田舎の村の日常がつらつらと続いていて退屈してしまうのですが、それも正体不明の連続死が起こるまでのこと。2巻、3巻はその事件の真相へ迫る推理小説で、そうなると何が起こっているのか知らないではいられなくなってきます。
 4巻、5巻は、明かになった真実に対する解決編。ついに「屍鬼」の存在を信じることとなった人間側の壮絶な復讐劇によって、物語には終止符が打たれます。

 この村に同胞だけの故郷を作ろうと夢を見た「屍鬼」の少女は、言っていました。屍鬼なんか世の中に存在しない、という人間の常識が自分たちの一番の武器だと。
 もし、人間が誰もそれを本当だと信じなくて、人間がしだいに「屍鬼」に入れ替わっていったなら、それはそれでぞっとするような話なのですけど、結局、物語は「屍鬼」側のほとんどが殺されて終わります。

 これは、一つの小説の中のお話。
 そう思っても、物語が終わった後もこんなふうにいろいろ考えさせられてしまうこと自体が、その世界に読者を引きずり込む小説家の手腕なんでしょう。
 小野不由美は、やっぱりすごい、です。

 怖い話やスプラッタな描写が無条件でだめでなければ、ぜひご一読くださいませ。

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Comments

 こんにちは。面白いレビューだったのでコメさせて下さい。

 僕は『ポーの一族』は読んでいませんが意外に元ネタとして的を得ているのかもしれませんよ。『ポー・・・』と『屍鬼』の場合は別な作者ですが、よく作者の場合「その後」とか別なアングルから旧作を別作として書くことはありますよね。しかしもし『ポー・・・』のその後なら結局堂々巡りになっていて、救われない気がします。いや共に生きてくれる人が一人でもいれば良いみたいな事なんですかね。

 僕の場合単純にユダヤとか華人とかを思い出しました。何処へ行っても交われず、交わろうとしない。自分たちだけのコミュニティーのみを重視して、土着民に貢献しないのでやがて敵意を買い殺されるか追い出される。尾崎をヒットラーのようにとらえることも出来るかもしれません。
 無論ユダヤも米国とかで共存同化しているとも言えますが多様性とか言う理屈が評価されるようになったのはここ数十年の話ですものね。無論一概には言いきれないけど、僕はそういう流浪の民がメタファーなのかと思っていました。


 では失礼します。

Posted by: sega | 2010.10.11 at 08:01

segaさん、コメントありがとうございます^^
面白いレビューだなんてうれしいですわ。
「ポーの一族」は少女マンガですが、ぜひご一読くださいませ。
屍鬼のシーンが逆にかぶってくるかもしれません。

結局のところ、同じ人間同士だって、肌の色が違ったり、いや、肌の色が同じだって、中国人か日本人か、その違いだけで、殺しあったり、憎みあったり、差別しあったりするわけですからねぇ・・・

考えてみれば、これは、屍鬼と人間の戦いよりもはるかに醜く凄惨な戦いです。
人間同士であんなふうに殺しあう。
屍鬼となった人間がけっして屍鬼になりたくてなったわけではないのと同じように、人間と人間の民族紛争だって同じ人間同士なのに。
そして、それが過去もそしてことによるとこの先の未来も現実にあり得るところが、本当に怖いですね。

Posted by: BUBI | 2010.10.16 at 00:19

はじめまして。
今ちょうど屍鬼のアニメ2巻を見ています。
今後どんな展開なるのか気になってネタバレ覚悟で検索したところ、こちらがヒットしました。
私も子どもの頃から「ポーの一族」が大好きで何度も読みました。
あの悲しいエドガーたちの物語が大好きです。
「ポーの一族」と並べて書かれたBUBIさんのレビューはとても興味深く読ませていただき、この際アニメだけではなく原作も読もうかなぁという気になってきました。

ちなみに私のハンドル「ベル」はメリーベルから付けました(^^)

Posted by: ベル | 2010.12.09 at 23:41

ベルさん、コメントありがとうございます。
ぜひ屍鬼の原作、読んでみてください。
アニメをご覧になってるのなら、最初の1巻でくじけずに済むはず^^

「ポーの一族」いいですよね・・・
今でも私の中ではバイブルです。

ベルさんのブログもブックマークさせていただきました。
のぞきに行こうっと♪

Posted by: BUBI | 2010.12.12 at 20:45

屍鬼のアニメが終わったらしいので
屍鬼と人間の対立を人間同士と並べてほしくないのです。
勝手に苦悩するのはいいのですが、
食べられる側と食べる側、人間と牛とか別の動物だと考えるべきだと思うのです。
この本を読み終えてものすごく腹が立ったのです。
それも人間のエゴなのでしょうか
でもポーの一族読んでみたいです。
ありがとうございました。

Posted by: エマノン | 2011.01.03 at 03:56

エマノンさん、コメントありがとうございます。
エマノンさんの憤りを私は文章から類推することしかできないので、間違っていたらごめんなさい。

人間が豚や牛を当たり前のように食べるように、屍鬼も人間を当たり前のこととして食べる。(ちなみに「ポーの一族」でも人間を「知恵のある麦」にたとえるくだりがあったりします。)エマノンさんのおっしゃる「人間のエゴ」とは、人間は当たり前のように豚や牛を食べるくせに自分たちが食われる側になるとまるで屍鬼を悪魔のように思い自分たちが正義であるかのように平気でぶち殺す、それがエゴだということでしょうか。

もしそうだとすると、私の感想はどちらかというと人間側視点ですからちょっとなぁと思われるのももっともと思います。

アニメを私は見ていないので、アニメで屍鬼という存在がどう描かれたかはわからないのですが、小説では人間と屍鬼、どちらの側というわけでもなくそれを読者にまかせるような書きぶりになっていました。
私も・・・おそらくもっと若い頃だったら屍鬼側に肩入れしたろうなぁ。

「ポーの一族」を初めて読んだのは小学生くらいの頃だったので、エドガーやアランやメリーベルがうらやましくて仕方がなかったです。
彼らの世界を破壊しようとする人間達が悪い奴に見えたっけ。
ぜひ「ポーの一族」も読んでみてください♪

Posted by: BUBI | 2011.01.04 at 21:20

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