乃南アサ「ヴァンサンカンまでに」
乃南アサの「ヴァンサンカンまでに」という本を読みました。
1991年が最初の出版だったようなので、もう19年前の作品ですが、19年前といえば、ちょうど私が就職した年なので、その意味では、今よりは古いけど、ものすご~く古くはない(いや古いか^^;)。
働く女性の意識というのは、ここ10~20年の間に大きく変わってきたし、これからさらにどんどん変わっていくから、この手の本はすぐに古くなってしまいます。20年近く前の話なんて、すでに古典の世界かも。「ヴァンサンカン」っていう言葉がすでに死語だし、24歳を女性の節目に感じる人は今やすごく少ないんじゃないかと。
今の時代、24過ぎたって20代ならそれだけで売り手市場。だって30代、そしてさらにその上のアラフォー世代だって、仕事や結婚に揺れている時代ですもん。
という中で・・・うん、今時は職場の新人女性と中年上司の不倫関係って想像できない。今時の22、23の女性が中年オヤジなんか相手にするかなぁ? 中年オヤジの方だって、怖くて手を出しにくいんじゃないかな。
昔は会社の女の子なんてそういう対象として見られがちで、女性の方もそういう対象にされるのが当然って雰囲気があったのかもしれないけど、今はな・・・まぁ職種にもよるのでしょうが。
そしてさらに今時、こういう男性は少ないんじゃないかと思われるのは、その新人女性が本命と見定める職場の同期の男性社員。誰もが憧れる将来有望な、でも女性を自分よりも下に見る傾向がありあり。
小説の中では結局、彼女はこの男性にも嫌気がさして別れちゃうんですけどね。嫌気がさす気持ちはすご~く分かる。
みゆきさんの歌に「羊の言葉」という歌があるんですが、その歌に出てくるような価値観を持っている男性です。
(引用開始)
♪羊は何にも言わないと思ってる
♪羊の言葉はあり得ないと思っている
♪黙ってただ笑ってるだけでいい
♪それで全てだと思ってる
♪耳を貸さなかったのはあなたよ
♪女が何かをほざいても
♪ほっておけとそれを誰からそそのかされたの
(引用終わり)
黙ってただ笑ってるだけでいい。
女は俺の言うとおりにしていればいい。
そういう男性。基本的には優しくてかっこよくて頼りがいがあっていいやつなんですけどね。身勝手でかなりケチだけど、それは経済観念がしっかりしてる証であって、結婚相手にはぴったり、みたいな。
そういう若い男と家庭のある中年男性の両方と、ゲーム感覚で付き合いを楽しむ23歳の女性、というのがこの「ヴァンサンカンまでに」という話ですが・・・
「今時あり得ないな~」
と思いつつ、けっこう面白く読んでしまいました。
結局のところ、この小説の主人公の女性が生きた時代も、時代の変わり目なんですよね・・・彼女もそれに翻弄された一人だった。
それを言うと時代の変わり目じゃない時代なんてあるのか、とも思いますが、つまりは、この激動の「今」というのは、男にとっても女にとっても「幸せ」って何なのかを自分で見つけなければいけない時代だということは言えると思うのです。
「自分の幸せは自分で見つける」
そして、それが許される。ある意味、とてもいい時代なんでしょうが、それだけに何が幸せかを見つけられないで苦しむ人も大勢います。
世間はこう言う。テレビはこう言う。親はこう言う。男はこう言う。女はこう言う。友達はこう言う。先輩はこう言う。後輩はこう言う。兄弟、姉妹、舅、姑、それぞれが言う。そしていろんな本の評論家がしたり顔で「負け犬」だの「勝ち組」だのいろんなことを言う。
でも、結局そのどれもが正解じゃない。
何をもって正しいとし、何をもって自分が幸せなのか。
人に合わせていると、100人が100通りのことを言うばかりで、自分が今、幸せなのかそうじゃないのかさえ分からなくなってしまいます。
女性だって誰に頼ることなく、自分の人生を自分で選択できる時代。
だから誰だって間違いなく選択して幸せになりたい。
でもうまくいかないことだってある。
うまくいかなかったときに、何かのせいにして我が身の不運を嘆くか、自分の選択の過ちを後悔し続けてその後の一生を台無しにするか。
でもどんな人生だって自分で選択できるなら、どんな境遇だって、一発逆転のチャンスはあるわけで。それってすばらしいことじゃないですか。
誰も貴女を幸せにはしてくれない。
待っていても幸せは訪れない。
「女の幸せ」が分かりやすかった時代は、自分でああでもない、こうでもないと悩む必要もなかったのですが、お仕着せの幸せよりは、たとえこの先に何があったって、自分で選択できる自由がある方が、全ての女性にとって、いや、男性も含め、全ての人にとって、一番の幸せなんじゃないかと私は思っています。
これからもっと女性の生き方は変わっていく。
悩んだ末に、結局結婚しそびれちゃったヴァンサンカンな男女はきっと多いんですが、それよりも後の世代は再び価値観が変わっていっている気がします。
たとえば、離婚が多くなっても、母子家庭、父子家庭が当たり前になってそういう家庭でも、子供を安心して育めるようなサポート体制とかがもっとできてくればなぁ~。少子化だって多少は解消するんだろうにな。
男と女の関係も人と人とのせめぎ会いですから、楽で楽しいことばかりではないけれど。
それでも私たちは人と関わることをやめない。
失敗しても成功しても、揺れ動く時代の中で、全ての人が自分の選択で、自分だけの幸せを見つけて欲しい。
現実でも小説でも、接するたびにいつもそう思うのです。
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