poem(88)
「五月の刃」
日差しが新緑を鋭く照らす
地には影が黒く落ちる
私は白茶けた古い建物の中にいて
その日差しに身をさらしてはいないのに
ヒリヒリと肌が焼けるのを感じる
人以外のものたちは
「今ここにある」ことが全てだろう
人だけが
過去や未来をその身の内に抱えている
けれど強い日差しに
過去や未来をかき消され
私もまた
ここにあるだけの存在となる
この圧倒的な光の前で
記憶や知識がどれほどの意味を持とうか
誰を愛し
誰に愛され
どうして生まれ
何を糧にして育ったのか
ああ私は
どこへ行こうとしているのだ
5月の光が刃となって
全てを薙ぎ払うと
あとには何も残らない
熱のない白い光に思わず目を閉じ
気がつけば
またそこは新緑
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