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2010.07.10

何を信じればいいのか~「弥勒」篠田節子~

作家の篠田節子さんの作品は、どの作品もいろんな意味で「すごい!」のが多く、はずれがないので、私はデビュー作の「絹の変容」からたくさん読んでいる方ですが、今回読んだ「弥勒」は未読でした。

ツイッターで篠田さんの作品についてのつぶやきをたまたま目ににし、私の大好きな篠田作品、「コンタクトゾーン」に似てるとのことだったので、読んでみたいな、と思っていたら、これもたまたま図書館の棚にあったのを見つけました。

こういうときにちょっと不思議に感じます。「たまたま」がいくつも重なる。
軽々しく運命とか言いたくないけれど。

※   ※   ※

インドと国境を接する、とある小さな山間の王国。
仏教、ヒンドゥ教などいくつかの宗教が融合し、美しい寺院や仏像などがあり、そこに住む王も僧侶も女性達もみな清らかで美しい。

日本の新聞社に勤める主人公は、その美しい国の数々の文化遺産を日本で紹介したいと思い展覧会の開催企画に奔走しますが、その国で政変が起こり、企画はおじゃん。
諦めきれなくて主人公は、国境も封鎖されたその国に単身、潜り込みます。

そこで彼が見たものは・・・

※   ※   ※

読んでいて・・・うん、「心が揺さぶられる」ってこういうことを言うんだと思いました。

その国でクーデターを起こした者たちは、王を追放し、美しい寺院を破壊し、住民を美しい都市から山間部の寒村へ無理矢理移住させ、そこで畑仕事や開墾などの肉体労働をさせます。
あまつさえ、寺院にいた僧たちはむごたらしいやり方で皆殺しにされました。

なぜ彼らがそれを憎むのか。
読んでいくとクーデターを起こした側の考え方もだんだんと分かってきます。

美しい都市、清らかな僧侶達。
それはそもそも山間部に住む人々からの搾取によって成り立つものであったこと。
僧侶達に寄進する米やバターを自分で口にすることができず、飢える民たち。
カースト制度の中で、最下層に位置づけられ、首都の人々から蔑まれ生きてきた人々。
それらを是正するためには、美しい町を破壊し、僧侶を殺し、全ての人々に同じ労働をさせることで、上流も下流もなく貧富もない社会を実現しようとしたのが、クーデターを指揮したリーダーでありました。

主人公は、彼らの捕虜となり、逃亡もできず、労働に甘んじることになりますが、日本人ですから農作業なんて全然できないし、体力も全然ない。
自分で食べる分は自分で作り、それ以上の文明は全て悪(医療でさえも)という思想の中で、死にそうな思いをしながら、なんとかその日その日を生き延びていきます。

・・・クーデターを起こした彼らが間違っているのか。それとも美しい暮らしをしていた都市住人が悪いのか。
いや、それを言うなら、今の日本の価値観って何なの?。そして私は・・・私の食べる分さえ自分で作ってないじゃないかと。

信仰って何なのか、文明って何なのか。
人が頭で考えることは全て悪なのか。
手で自分の食べるものを作ることだけが正しいのか。
でもその文明のしわ寄せがどこかにいっているのなら・・・。

読み進めるたびにページを繰る手を止めて、何度も何度も考えてしまいます。

文明を否定したくはないんだけど。美しいものを打ち壊してしまうのは悪なはずだけど。
でも明日食べるものもない人間にそんなこと言える資格が私にあるのか。

いろんな思いがあふれてきて、胸がどきどきします。

主人公はどうなるのか。クーデターのたどり着く先は?
この先はここでは書きませんが、興味を持った方にはぜひ読んで欲しい。

解説にはこうあります。

「似たテーマを扱った作家、作品は決して少なくはないけれど、ここまで人間の悪や愚かさを徹底して直視し、容赦なく書ききった小説はちょっと類例がない」

篠田節子さんはすごい作家です。そして「弥勒」は篠田作品の中でも、特筆すべき作品なのは間違いありません。お勧めです。

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Comments

興味を引かれたので、手に入れました。

篠田さんの小説は初めてですが、布団の中で止められなくなり、寝過ごしてしまいましたが、おかげで1/3くらい読み進みました。

Posted by: 春海 | 2010.07.19 at 18:47

おお~happy02
この記事を読んで興味を持っていただけたなんて、とてもうれしいです♪

かなりディープな作品ですが、一読の価値ありですよね。
また読み終わったら感想もブログに書いてください^^読みにいきます。

Posted by: BUBI | 2010.07.19 at 22:47

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