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2020.08.29

愛するものを守るために人を殺せるか -「竜の道」-

 ドラマ「竜の道」を見ています。

 玉木宏と高橋一生が双子の兄弟の役で、二人は親代わりだった夫婦を自殺に追い込んだ「キリシマ急便」の社長に復讐しようとしている…そういう物語です。

 兄の竜一(玉木)は、自殺願望を抱く男を自分の家で自殺させ、その遺体を焼いて自分だと思わせることで「竜一」の存在を世の中から消し去り、顔も整形して、裏の世界でキリシマへの復讐を果たすつもり。

 弟の竜二(高橋)は、そんな兄と密かに連携をとりながら、自分は国土交通省のエリートとして、表からキリシマ急便を追い詰める役割を担います。

 二人は一度、キリシマを追い詰めるネタを手に入れ、復讐を果たす一歩手前までいくのですが、残念ながら某ヤクザの手でその計画はつぶされてしまいました。そのとき、竜一はヤクザの前で自分の無力さを思い知らされ、その絶望が故にだったのかな…当時、勤めていた出版者の社長が、目の前で発作を起こした際にそれを見殺しにして、社長がため込んでいた裏金を奪い取りました。

 まあ…竜一が殺したようなものです。その際にその社長の息子に顔を見られ、竜一自身も、自分と同じように親を理不尽に殺された子供を作ってしまったことで罪の意識に日夜苛まれています。

 たとえ復讐が果たせたとしても、自分は人を殺している。二度と日の当たる場所を歩くことはできない。

 そう考えている竜一は、復讐計画を実行するにあたり、妹の美佐を巻き込んでしまったこともあって、5話で竜二に「お前は外れろ」と言いました。お前はまだ引き返せる、と。そして自分が人を殺していることも竜二に告白します。

 それを聞いてしばし考え込む竜二。でも、竜二は竜一と一緒に行く、と竜一に伝えます。復讐は二人で果たすのだと…。

 

 というところまでが、今日(8月末時点)のドラマの展開ですが、うーん、ちょっとね。いろいろと考えてしまいました。

 前にも書いたことがあるのですが、私は三原順の「はみだしっこ」シリーズというマンガのファンで…というか「はみだしっこ」はバイブルみたいなもので、ことあるごとに思い出すマンガなんですけど、「竜の道」を見ているとはみだしっこといろいろかぶるんですよね。

 竜一と竜二のように自分よりも大事な誰かがいる人は陥りがちなことで、

 『AはBが幸せでないと幸せじゃない。→BはAが幸せじゃないと幸せじゃない。→結局二人とも不幸せ』

 これは「はみだしっこ」に出てくる話ですが竜一と竜二もそうなんです。竜一は自分がどんなことになっても竜二と美佐が幸せならそれでいいと思ってるに違いないのですが、竜二もそれは同じ。だから竜一が復讐の道に進もうとする限り、竜二の選択だって一択です。自分も竜一と共に修羅の道を歩むしかない。

 でもそれって二人が本当に望んでいたことなんだろうか?

 ドラマの竜一は、はみだしっこのグレアムのようだな、と思います。

 私は、はみだしっこではアンジー派で、目の前で人が死んでその肉親が泣き叫んでいようとも、自分の愛しているものを守るためなら何だってやるし、それを後悔したりしない…そういう思いに共感してしまいます。

 だから竜一に対しても「そんなに苦しまなくてもいいのに」と思っちゃうんですよ。私もアンジーと同じで冷たい人間だから?

 そう思った自分にちょっとびっくりしてしまいました。

 私はグレアムとは違い、目の前で人が死んでも、それが仮に自分のせいでも、自分の命でそれを償おうなんて発想は多分しないでしょう。目の前で人が死んでも、それを忘れて笑って生きられるような気がする。アンジーにとってそれが救いであったように。グレアムにとってはそれは呪いだったけれど。

 愛する者のためだったら、他人を犠牲にしても平気でいられるか?

 でも結局、それにYESと答えてしまったら本当は竜一も竜二も「キリシマ急便」の社長と同じなのよね。

 何のための復讐なのか…何というか年をとった分だけ勧善懲悪に物事を見られなくなっていて。「キリシマ」は悪い奴で、竜一と竜二は正義だと単純には思えない。

 いや、少なくとも…キリシマへの復讐を果たすために、誰を犠牲にしても平気でいられるほどには全然強くない竜一を見ていると、胸が締め付けられて泣きたくなってきます。

 全く…だったら私が代わりにやってやるよ、って思っちゃうわ。竜二はそう思ったことはないんだろうか。君の兄貴はそんなに強くないよ。

 いや、もしかすると竜二は分かっているのかも。分かっていて利用しているわけではなさそうだけど、でも1話冒頭を見ても、多分竜一が望んでいるような筋書き(自分だけが復讐の犠牲になって、竜二と美佐は幸せになる)にはこの話はならない。だって竜二もきっと竜一のことを思っているから。もしかしたら、最後は竜一の代わりに自分が犠牲になってもいいと思うほどに。

 ということで、結局、そんなふうに考えている限り、AもBも幸せにはなれないのよ。

 竜一も竜二も大馬鹿だわ… 1話のときと同じように5話で二人が抱き合って泣いて、竜二が竜一と一緒に行くと言うシーンを見ていてもたってもいられなくなってこれを書いてしまいました。

 これからどうなるのか…心がざわついてどうしようもありません。

 

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