「流浪の月」(ネタバレあり)
大絶賛の作品なのに自分には響かなかった…たまにそういう本に出会うことがあります。
逆ももちろんあります。世間的には不評なのに私はすごく「好き」っていう作品ね。
「流浪の月」は2020年の本屋大賞に選ばれ、映画化もされたベストセラー。
これねぇ、全然響かなかったのよねぇ。
なぜなのかを考えてみたいと思います。
主人公の女性、更紗は幼い頃に父を亡くし母は娘を置いて出て行ってしまい親戚にひきとられますが、そこで従兄弟の男性から性的な虐待を受けます。
環境の変化に加え、虐待が嫌で家に帰りたくなくて一人で公園にいた9歳の更紗。
そこに一人の男子大学生が優しく手を差し伸べてくれます。
家に帰りたくなかった更紗はその大学生の一人暮らしの部屋で過ごし、その居心地の良さにそのまま居着いてしまいますが、当然、捜索願が出されます。
男子大学生にねだって動物園にパンダを見に連れて行ってもらった際に、更紗と大学生は警察に捕まり、大学生は更紗を誘拐し、監禁したことになってしまいます。
悪いことに更紗は従兄弟の性的虐待を恥ずかしさで口にできず「なぜ家に帰りたくなかったか」を説明できなかったため、大学生とは引き離されます。
いったん家に戻りますが、また更紗を触ろうとしてきた従兄弟に暴力で対抗したため、更紗は施設へ。
そのまま時は流れ…再会した二人は、お互いに相手を傷つけてしまったことを気にしてなかなか近づけませんが、結局は両思いということが互いに分かり。
世間には全く理解されず、かつで大学生だった男性は「女の子を誘拐監禁した小児性愛者」というレッテルを貼られたまま、女性はその被害者と誤解をされたままですが、二人はそんな過去を知らない土地へ移り住み、ひっそりとお互いを大切に思い合い、生きていく。
…そんな話です。
なんで響かないのかなぁ。けっこう好きそうな話なんだけどなぁ。
私も…いえ誰もが感じる感覚なのかもしれませんが、自分が何か周囲と違っていて、世界に受け入れられないという感覚が子供の頃からすごくあって、その意味では彼と彼女に感情移入できてもいいはずなんですよ。
なのにどうしてか、あんまりそこにピンとこなかった。
理由は、多分、上に書いたとおりで
「そんなのは誰にでもある」
と感じてしまうからなのかもしれません。
ちょっと人間、長くやり過ぎたかな。
子供の頃、思春期の頃、若い頃…その頃は世界で自分が何か特別な存在だと思いがちです。
私も特別だと思っていましたよ、自分のこと。
だけど、実は全然特別じゃないことに…いつ気づいたのかなぁ。
人間って誰もがいびつで、同じ人間も同じ家庭環境も存在しません。
私が子供の頃は世の中には「普通」がはびこっていました。
普通にお父さんとお母さんがいて、普通に学校に行って、普通に就職して、普通に結婚していく。
私は中身は特別なつもりでしたが、なるべくおとなしく目立たなくしていたので「普通」のレールに乗れるつもりでいました。
ところがどうでしょう、就職まではなんとか普通に行ったけど、普通に結婚できなかったし、普通に子供も作れないまま今に至る。
でも、そんな人が今はいっぱいいる。
みんないびつで、特別なのが普通。「オンリーワン」が普通。
私としてはずいぶん生きやすい世の中になりましたけど、多分、そのせいで人はとても孤独になりました。
で、そんな、皆が「特別」なのが普通な世界にあって「流浪の月」の二人がどれだけ「特別」なのか私には疑問です。
子供に対する性的な虐待ってものすごくたくさんあって、その被害に遭ってる子供も大勢いて。
文のように大人になれない男性だってきっといるでしょう。
そういう世の中で自分達だけがまるで特別のように語られてもなぁ。
結果的に二人は出会えてよかったんだと思います。
でもさ、世の中には、そういう相手に出会えずにずっと自分の孤独を抱えっぱなしの人がもっと大勢いると思うのよ。
「ファンタジー」だよなぁ。
いや、ファンタジーは私は好きですが、甘っちょろい絵空事のように感じてしまいます。
もうね、世の中に普通なんてないのよ。
夕飯にアイスクリーム食べられるだけで幸せなのよ。
ちょっとばかり特殊な状況にある文には同情する気持ちがないわけじゃないけど、
「だから何なんだ」
と思ってしまう気持ちの方が私は強い。
体は普通でも結婚もできないし、子供もいない男性が今の世の中には本当にたくさんいて、それでも何とか自分らしくこの世界を生きていくしかないのよ。
…うーん、お互いに必要な人に出会えてしまった小説の中の二人に対する嫉妬みたいでやや恥ずかしいんですが、これが正直な私の感想です。
書かずはいられませんでした.
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